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自社論理の強要~わかっちゃいるけど、やめられない

 

自社の都合で構成された商品企画やサービス提供は、必ずしも顧客のメリットになるとは限らない。だから、自社にとってのメリットを考える前に、顧客にどのような価値を提供できるのかをよく考えましょう・・・というようなことは、マーケティングの初歩の初歩として、どんな教科書にも書いてある。

 

誰でも知っていることだ。

しかし、どの会社でもやってしまうことでもある。そこに宿啞がある。

 

実際には各社には達成すべき目標数値があり、それが各部署に降りてくる。当然だが、それは必達目標であって、人事考課もその達成状況によってなされるのは当然のこと。

 

そうなると、各部署において行われる戦術レベルの方策は、数値目標達成を実現するためという近視眼的な視点によって構築されやすい。

 

自由競争市場においては、その達成目標は、各現場の責任者にとっては過重と感じるような水準の数字であることが珍しくない。とりわけ、現代日本において各所で露呈している同質競争状態においては、なおさらである。

 

同質競争下においては、商品内容やサービス提供手段などにおいて、他社との差異は殆どない(供給者側は差別化していると思いたくても、需要側にとっては、その差はまったく感じられない)ところまで来ている。その状況において過重な数値目標を達成しようとすれば、押し込みセールスに頼るほかない。

 

当然だが、「押し込みセールスをしましょう」などと標榜するわけはない。「お客様との接点を増やしましょう」などと、もっともらしい言い回しになるのだが、エッセンスは同じことである。

 

銀行の支店の窓口という昭和レトロな場所がある。

銀行側としても、金食い虫の筆頭格である窓口業務を極限まで減らしたい。支店の統廃合は近年さらに猛威を振るっていて、これまで聖域視されてきた東京都心の名門支店も情け容赦なく廃止の対象とされている。

 

問題は、窓口でしか扱えないトランザクションが残存していることである。(電子取引限度額を超える資金移動、振替納税対象外の種目の納税など)

顧客は、他の代替手段がないから、遠く不便になった窓口に足を運ぶしかない。

 

銀行側は、ただでさえ経費の掛かる窓口業務から何とかして収益を生み出そうとして(正しくは、少しでもマイナス分を補おうとして)、あの手この手で作戦をひねり出す。

その1つに、預金残高が一定以上の客が窓口に(偶然でも)来訪したら、営業担当者につないで手数料率の高い投資型商品を売り込むという活動がある。

 

クロスセリングとか、提案型マーケティングとか、格好の良さそうなネーミングはついているようだが、要するに一般人の感覚からすれば、押し売り以外の何物でもない。

 

単なる押し売りならば、「結構です」と断れば済むので実害はさほどないのだが、そう簡単ではない。

ここ数か月で何度も同様の体験をした。

 

こちらは、単に資金移動や納税という単純な動機で、渋々窓口に来たのであるが、そんな簡単にして単純なトランザクションに異常に時間がかかるのだ。某メガバンクは都心部の支店を数多く統廃合したうえ、残存させる支店の窓口を斬新な構造にしている。

 

斬新というのは誉め言葉に用いる用語なので、客にとってハタ迷惑な構造は、斬新というよりも自己満足と表現すべきかもしれない。

 

いっくつかタイプがあって、カウンターが並んでいるものと、全部のカウンターが個別ブース状になっているものとがあるようだ。どちらのタイプも、従来のように後方作業が客からは見ることができず、完全に別室において後方作業はなされていて、客からは壁の向こう側を見通すことも音が聞こえることもない完全遮断構造となっている点は共通している。

 

客のトランザクション要望を受け付けると、窓口担当者は通帳や伝票類を持って一旦壁の向こうの別室に消えていく。

 

単純なトランザクションで、またこちらもわざわざ来店客の少ない日取りと時間帯を選んで来ていて、実際にほかの来店客はいないか、いても1人2人という時間帯であったにもかかわらず、手続に要する時間が異常に長い。

 

やっと名前を呼ばれたと思ったら、さっきの窓口担当者とは別人が、さきほど預けた通帳などを持って現れた。

 

名刺を出して挨拶までしてくれる。急いでいるうえに待たされたのに、さらにご挨拶とはご丁寧な!

挨拶だけで済むわけもなく、早速金融商品のお奨めに入る。

 

通帳発行店(銀行取引上の本籍地みたいなもの)だったから、「お客さま担当」者が出てきたのかと思って、次回からわざと通帳発行店を避けて、別の無関係な支店を利用することにした。

 

だが、その目論見は見事に外れた。

 

まったく同じことが起こった。

ガラガラの店舗で単純な手続に異常に待たされた挙句、別の「お客様担当」者が通帳を持って現れ、「資産運用のご案内」と来た。

通帳発行店でなければ大丈夫だろうという期待は、甘かったのだ!

 

長時間待たされるのは、恐らく後方室において当該顧客の資産背景や取引履歴などを予習したうえ、勧奨する商品を選定し、営業ツールを用意するなど、諸般の営業準備に時間をかけているからと思われる。

 

とんだ迷惑な話ではないか。

 

しかも、それが「顧客のため」という大義名分において行われているから、指示している管理職にも、実行している担当者にも罪悪感が微塵もないところが罪深い。

 

これではおっかなくて、おちおち窓口など訪問することはできなくなるというものではないか。

 

もっとも、窓口来訪客数を減少させるというのも、数値目標に入っているのだとすれば、この自社論理丸出しの押し売り営業作戦は、非常に効果的な戦術といえるかもしれない。