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再生ファンドが金欠で支援先から無心

 

事業再生というと格好はいいのですが、上手くいかないことも実は珍しくありません。今朝の日経全国版に、山形市中心部の老舗百貨店の再生を引き受けた投資ファンドが、支援先の資金を使い込んでしまい、ファンドの社長が解任されたとありました。

 

地元山形では随分と前から問題になっていたようで、東京商工リサーチが独自の調査によって詳細に報じています。

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190220_02.html

 

この商工リサーチの記事に載るのは、あまり朗報とはいえません。

なにせ、こちらは帝国データバンクと並んで興信所業界のツートップです。

金融関係者や事業会社の債権管理のプロの必読コーナーである「倒産情報」に、載った会社と載りそうな会社が主として取材を受けています。

 

この再生ファンドは、大手都銀の出身者によって設立され、これまでに地方拠点都市の百貨店などを多く手掛けてきたようです。

 

本件の山形市のみならず、盛岡、姫路、熊本という都市名が並んでいます。

全部百貨店です。

 

いずれも、都市の中心部にあって、老舗で、昔から高額なお買い物はその店ですると、誰もが疑うことなく決まっていた存在といえます。

 

地方中核都市にある地場資本の百貨店は、地域住民(とくに年配の方々)からは「○○さん」と、敬称付きで呼ばれているのも、東京にいるとわからない事情です。

 

今回の山形の例でも、市民に取材した別の記事を読むと、「大沼さん」と呼ばれていることがわかります。

 

さて、この投資ファンドは、地方における地域住民の心の拠り所でもある、老舗百貨店をなんとか再生したいという純情な気持ちを持っていたことが伺えます。

 

ファンドの関係者に会った訳ではありませんが、ホームページや創業者のインタビューなどを見る限り、そのような純真無垢な心情が語られています。

 

そんなことは上辺の化粧であって、ホームページや外部インタビューなどに本音を出す馬鹿はいないではないか。

 

再生ファンドといっても、とどの詰まりはハゲタカであって、キレイなことを言うのは、汚い素性の裏返しに過ぎない。

 

・・・このような声が聞こえて来そうな気もします。(苦笑)

 

しかしですね、会ったこともないこの再生ファンドを採り上げて、敢えて「想いは良し」と認じるのは何故なのか?

 

それは、このファンドの「成果」がお粗末だからです。

成果が無さ過ぎる。

 

上述の地方百貨店は、どれもうまく行っていないようです。

百貨店以外には、老舗旅館などもやってきたようですが、これも空振りで最近経営を他へ委ねています。

 

過去にやったラオックスや本間ゴルフは中国へ転売しています。

 

このように成功トレースがないのに、カネ余り環境で一定の資金は集まるし、再生案件は黙っていても次々に持ち込まれます。

 

人のカネで買ったり転売したりするのは、元銀行員としては面白いのかもしれませんが、事業再生というのは、そんな生易しいものではありません。

 

(離れて行った)顧客と(離れて行きたがっている)従業員と(つかず離れず)心配そうに見ている地域社会という、ドロドロの現場に身を置いて、24時間365日の触れ合いの中から少しずつ滲み出てくる自己の高潔性を、そうした周囲の人々に、1人また1人という、牛歩の歩みで認知を得て、信頼に換えて行って、初めて脱線していた車輪が軌道に乗り戻るのです。

 

金融界出身者が悪いとは申しませんが、このような自己の人間性で無告の民の心を掴むという営みを、やってきた人がどれだけいるのかということです。

 

議決権だの経営権だのといったカネのパワーで表面的な権利を掌握したところで、現場の従業員と顧客の心が動かなければ価値は創造できません。

 

精神論を言いたいのではありません。

 

手を出している案件をみていると、時代認識に甘さがあります。

 

マクロの事業環境は、私企業1社の力では微動だにできないという、事業経営の基本に対する理解が浅いというか、その視点が欠けています。

 

これでは、成果が出なくても転売したときに何割か乗せて売り抜ければいいや、というハゲタカの本領も発揮できません。

 

本物のハゲタカなら、悪者らしくもっと冷徹に狙い目を品定めするでしょう。