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オンライン開催の株主総会でサプライズ

株主総会シーズンも最終盤です。

コロナ禍で、「株主様にはご来場をお控えくださいますようお願い」する上場企業が続出しています。

 

年に一度の、つまり泡沫株主にとっては年間で唯一株主扱いを(曲がりなりにも)される貴重な機会です。

 

どういう役員がどんな顔つきをしているのか、質問にはどうやって答えるのか、どういう株主が来場してどんなことを喋る人たちなのか、などなど、興味は尽きません。

 

いろんな意味で面白いので、これまでに数多くの総会に可能な限り出席してきました。

 

ところが、今回は「開催するけど来るな」という会社が大手を振っていて、どうも簡単に納得がいかず消化不良を起こしていました。

 

そうした中で、本欄でもお家騒動を採り上げたリクシルが「オンラインで実況生中継します」という招集通知を送ってきました。これなら得心がいくので大歓迎で接続して、さきほどまで中継に見入っておりました。

 

オンライン中継をするという、こんな簡単で当たり前のことを実施する会社が少数であることに、再度疑問が沸々と湧き上がるのですが、それはちょっと措いておくことにします。

 

ログイン方法やパスワードについて、わかりやすい紙が招集通知に同封されています。

 

ズーム会議に慣れている人にとっては、わけもないことですが、アプリを事前にインストールしておく必要もないし、ズームよりもはるかに簡単でした。

 

特筆すべきは、オンライン参加株主にはテキストメッセージで投書する機会が与えられていたことです。

 

会社や総会の議長に対して、言いたいこと、聞きたいことがあれば、書き込めば先方で(少なくとも事務局には届いて)読んでくれるようでした。

 

実際に、何通か議長が取り上げて読んで、その場で返答していました。

私も投稿したのですが、たぶん採用されないだろうな~と思った内容でもあり、案の定スルーされましたが、それでも十分に有意義な取り組みだと思います。

 

ちなみに、採用されないと思って投稿した内容は、「伊奈取締役を再任しないのは何故ですか?」というものでした。

例の創業家の潮田さんのご乱心事件で、潮田さん側につかずに瀬戸さんについた旧INAX創業家を代表する取締役を、今回再任しなかった理由を聞きたかったからです。

 

さて、当日の総会会場では、ちょっとしたサプライズがありました。

 

それは、「出席を控えて」という会社側の「強いお願い」にもかかわらず出席した株主からの発言でした。

 

他社でよくある議事進行方法では、「ご発言の株主様は、議長に指名されましたら、出席票の番号とお名前を仰ってから、ご発言ください」というように、名乗ることを求めています。

 

リクシルでは、「お名前を仰っていただく必要はございません」とわざわざ議長が事前に言っていたのが珍しかったといえます。

 

それで第1発言者の個人株主が議長に指名されるや、「私は、リクシルの社員で、〇〇と申します」と名前を名乗ってしまいました。中年の男性でした。

 

発言内容は、「トステムの潮田、リクシルの瀬戸と言われるような経営者になってください」というものでした。

 

普通、社員株主というと、会社側の指示で有給休暇を取らされて(それもひどい建て付けですが)、与党として議事進行に積極的に関与することを強制された名ばかり株主か、労組を代表して社内の労働問題について総会の場で経営者を追及するかの2つのタイプが多かったように思います。

 

ちなみに、NTTやJALなど、「荒れる総会」が定番だった大企業では、両方のタイプの社員株主が出席していました。後者の発言などは、延々としゃべることが多くなるので、フロアの一般株主から「そんなこと社内でやれよ!」と野次が飛ぶことも、よくある光景でした。

 

さて、図らずも議長として、社員から自分に対するエールを送られた瀬戸さんは、破顔一笑という表情になりました。

 

ヤラセではなく、予期しない発言だったことを窺わせました。

 

その発言に答えた後も、閉会の挨拶の際にも「さきほど頂きました〇〇様のご期待に沿うよう、努力して参りますので・・・」とアドリブを入れていたくらいです。

 

旧創業家の潮田さんを追い出して復帰した瀬戸さんに対して、社内からは絶大な支持があるという状況を垣間見た一瞬でした。

 

それにしても、「トステムの潮田、リクシルの瀬戸」とは、なかなかの名言です。よく考えて構成されています。

 

潮田氏を既に消失した会社名とリンクさせることで、完全に「過去の人」であると決めつけ、瀬戸さんを現社名と並置することで、瀬戸さんの地位の正統性が創業家をもはや超越した盤石のものであることを非常に短いフレーズで表現しています。

 

フロアの一般株主の発言としては、リクシルに限らず、日本の株主総会史上に残る名言だと思います。