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株主総会出席レポート(その1)

6月下旬は株主総会シーズンです。

 

今年は、5社の総会にリアルで出席して参りました。そのうち、大手企業3社についてレポートします。

 

6月22日(火曜日)には、ソニーグループ株式会社(証券コード6758)が、グランドプリンスホテル新高輪で開催しました。

 

コロナ禍により、「なるべく来ないで」オーラが満載の招集通知で、株主総会の開催日時も場所も、通常のように表紙や裏表紙というわかりやすい箇所には記載がありません。

 

代りに、「ご来場自粛のお願い」が表にも裏にも大きく太字で書いてあります。

 

それでも、会場は同じ新高輪の「飛天」ではないにしても、大きな部屋を確保してありました。席と席の間隔を広くとって、2百名くらいは来ている感じでした。

 

各席には、写真のように「うちわ」兼用の挙手ボードが用意されています。この色が色々あって、議長が指名しやすいようになっています。

 

各社とも来場株主に「お土産」を配布しなくなって、それだけが目当ての高齢者がぱったりと途絶えたのは、適正化の進行として好ましいことです。

 

かつてひどい頃には、総会開始時刻の1時間前くらいの受付オープンと同時にやってきて、「お土産」だけ受け取って帰る老人が目立ちました。

 

どの会社でも、お土産は閉会後にお帰り時に渡すのですが、彼らは受付到着と同時に「先に土産を出せ」とうるさく要求するので、どの会社も頭を痛めていました。

 

なぜ口開けと同時に来るかといえば、同じ日に何社も「はしご」するからです。

贈答品目的の個人株主は、品物さえ与えておけば、議案などに文句を言わずに長期安定的に株を持ち続けてくれる傾向にあるということで、各社とも厚遇してきました。

 

出席する株主だけに手渡しで配布するというのも、株主平等の原則からするとおかしいという指摘は古くからあったのですが、手土産を廃止すると総会の質疑応答で個人株主から不平不満の発言が相次いだこともあって、なかなか全廃には至りませんでした。

 

こういう時には、日本企業には秘技ならぬ公然たる得意技があります。

「一斉廃止」です。

 

かくして、上場企業が一斉に廃止したために、「他社は出しとるぞ!」という指摘ができなくなって、一気に正常化が進展しました。

 

めでたし、めでたし。

 

でもこれって、既視感があります。

そう、総会屋を追放したときと同じ手法です。

 

「うちだけやめたら、集中攻撃される」という恐怖は、みんなが同様に抱く以上、みんなと歩調を合わせることでしか克服できないという、毎度お決まりのパターンをたどりました。

 

それにしても、大好きな「横並び」でしか変革を企画することも成し遂げることもできない日本企業の水田耕作型の発想は、稲作伝来から数千年を経ても脱却できないようです。

 

イノベーションとは、独断専行することです。

なのに、社内稟議を通すには「他社の先行事例」がほぼ必須となっているのは、日本の企業社会にはびこる悪い冗談の典型例です。

 

せっかくソニーの総会レポートをしようと思ったのに、イノベーティブな近年のソニーとは無縁の古い日本企業の話が長くなってしまいました。

 

社長の吉田憲一郎さんは、財務畑出身で派手さはありません。

かといって、決りきった紋切り型の原稿を棒読みすることもなく、朴訥な自分の言葉で、流れるようにではなく、訥々と語るスタイルは却って好感度を上げていました。

 

個人株主からいろいろな質問が出ましたが、まず社長があらかた答えてから、詳細を担当役員に振って再度返答するスタイルでした。

 

社長がなにか発言するたびに、会場の出席株主から拍手が沸き起こっていました。

これは、その会社に対する「ファン度」の高い会社の株主総会では、しばしば遭遇する光景です。

 

反対に、NTT、JAL、メガバンクなど、比較的「アンチ度」の高い総会では、怒号が飛び交うことはあっても、会社の発言に大勢の株主が拍手するなどということは起こりません。

 

さて、今回の質疑応答でもっとも重要だと思ったやりとりを紹介します。

質問者は、温厚な口調の中年男性の個人株主で、事前に財務諸表をよく調べてあるようでした。

 

Q:今期1兆円を超える純利益で配当が690億円、1株当り55円、配当性向5.8%というのは、いかにも寂しい。ストックオプションの発行が議案になっているのに、この低配当はなぜか。現状21%の自己資本比率をパナソニック並みの36%にまで向上させたいというのであれば、そのように言ってほしい。

A:長期安定的に増配したいのが基本方針である。自己資本は既に十分と考えており、それよりも将来性のある長期投資を行なう。中期3年計画で2兆円の資本投資を計画しており、自己株式も機動的に取得し、長期的な株価を重視していく。

 

この返答はCFOからなされたのですが、正直なところはあまり説得的とはいえませんでした。

 

三菱商事(次回レポート予定)が、配当利回り4.5%という高配当です。業種や競争条件が異なるので一概に比較できないとはいえ、業績好調のソニーが0.5%の配当利回りでいいのかという疑問は、個人投資家としては当然の問題意識といえます。

 

CFOはテクノクラートなので、言葉を敷衍して饒舌に走ることはできません。

そこで無理矢理おもんぱかって拡大解釈を試みると、本心でいいたいのはこういうことだったのかもしれません。

 

「当社は巨大なるベンチャー企業です。1円でも資金があれば成長投資につぎ込みたいのです。もはや家電メーカーではないので、日本の家電業界と比較するのはやめてください。AI、イメージセンシング、EVのエンジニアやクリエーターなど、世界のトップ人材の争奪戦にストックオプションは必須です。」

 

各議案の採決にあたり、賛成(Forの英語表示あり)票・反対(Againstの英語表示あり)票が1票単位まで電光で即時表示される大型ディスプレイが会場に設置されていました。

 

「拍手」によって「多数のご賛成を頂きました」という、曖昧かつ不思議な慣行による議決ではない姿勢がみられました。