Q  私は都内で運送業を営む者です。自分は2代目ですが、後継者をどうしようかと考え始めました。

 いまの運送業は、私の父が創業した事業で、主に2トンのトラックを10台余り保有して、ドライバーがその数だけおります。

 運送屋にもいろいろな形態がありますが、当社の場合には荷主をその都度探して荷物の運搬を請け負うのではなく、同じ荷主に毎日トラックを運転手ごとお預けして、月極の運賃を頂く形態をとっています。父が創業した当時は、景気が良く、いくらでも仕事があったようですが、私が継いだころには不景気で、車両の台数も随分と減らさざるを得ませんでした。

 減ってばかりではジリ貧になるので、新規の荷主さんを開拓するために、あちこちのつてを頼って営業開拓をしてきました。既存の荷主に同業の方を紹介してもらうとか、取引のある信用金庫にお願いしてお客さんを紹介してもらうとか、時にはチラシを作ってダイレクトメールを送ったりもしました。その効果は、あまりかんばしいものではありませんでしたので、かなり弱気になっていた時期もありました。

 ところが、民主党から自民党に政権交代が決まってから、急に景気が回復しました。それはテレビで報道されていることよりも、配送している荷物の量が増えたり、新規の荷主から引き合いが出たりということから、実際に当社の扱い量が増えたことで実感できました。

 これはいい感じになってきたと思ったのも束の間でした。

 急にドライバーが集らなくなってしまったのです。これまでは募集広告を出すと、特に若い子にとってはほかの産業よりも給料が高いため、比較的集りは良かったのですが、アベノミクスになってから荷物はあるのに人手が足りないという状況になってしまいました。

 かといってドライバーの給料を上げて広告を出すと、昔からいるドライバーの給料も上げないとならず、そうなると会社の利益も出なくなるので、痛し痒しです。荷主に運賃を上げていただくように要請しても、「それなら、業者を替える」とすぐに言われるので、これもできません。

 ただし、ヤマトさんの問題が大きく報道されてからは、少しずつ荷主さんの理解も進んできた面はあり、少しではなりますが、運賃の値上げを飲んで頂くことができました。これは20年ぶり以上のことです。

 これによって、会社の収益状況も若干ですが改善していくかと思ったのですが、同時に電通の問題が出て、残業代について非常に厳しく言われるようになってしまいました。これまでは、余程の長時間の残業などがない限り、一括して「月いくら」という賃金形態でやってきました。実際の乗務時間が、規定時間よりも長い日もあれば、荷物の量が少なくて短時間で終わってしまう日もあるからです。

 ところが、そんなどんぶり勘定ではダメですという指導が役所からあり、実働時間で払うようになると、せっかく荷主から認めてもらった値上げ分がそっくり出て行くことになります。

 このように、会社の経営状況としては余裕のある状況ではないので、自分の息子を後継者にすることは考えていません。息子は大学生ですが、この商売を継ぐとか、そういう会話はこれまで一度もしていません。自分もまだまだ若いので、いまの時点でそのような話題を出そうとも思っていませんが、後継者がいないために廃業する中小企業が多いとか、後継問題は早くから着手したほうがいいとか、いろいろな人がいろいろなことを言って来てくれるので、何とかしなくてはと思い始めたところです。

 しかし、自分も父から継いだのがつい先日のように思えるほど日が経っていないので、もう次にバトンタッチすることには、まったく実感が湧きません。いまできるとしたら、どのようなことでしょうか?

 

 

A

 

事業の継承には時間が必要なので、早い段階から計画的にじっくりと進めるべきだ、という

論調を最近よく目にします。

しかし、これは当代の経営者が高齢もしくは病気などで、言い方は悪いですが、この先余り

長くはないと想定される場合のことです。

本件のように当代の経営者がまだ現役バリバリで、かつご子息が大学生という状況では、

事業継承のことを本気で心配されるのは、正直言ってお奨めしません。

いまのあなたの段階で、「事業承継対策業者」を訪ねてしまうと、あなたは現状の困った事情を

延々と話し、それを聞いた業者は、事業の売却を提案して来るでしょう。

「今なら間に合います。御社の荷主さんにご迷惑がかかる前に、荷主と従業員を引き継いでくれる

会社がありますからご紹介します。事業譲渡の対価も入りますから、銀行の借金も返せますよ」

などと言われ、あれよあれよという間に進んでいくでしょう。

後継者対策を相談しようと思ったのに、会社を手放すことになってしまったということでは

本末転倒もいいところです。

この段階で後継者対策を検討しないことをお奨めする最大の理由は、「経営者の最大の責務は

事業の魅力度を高めることにある」からです。

その事業の「魅力度が高い」ということは、「高収益」で、「成長性も高く」、「やっていて

楽しい」し、「従業員も幸せを感じている」という状態です。

ご質問の文章からは、そのような幸福感は感じることができず、反対に、「これも困った」「あれも

困った」というように、八方ふさがりの状況に追い込まれているようにお見受けします。

いま質問者がなすべきことは、後継者のことを考えることではなく、自分がやっている事業を

どうしたら魅力的にすることができるかを考え、実行することです。

運送業といっても、辛くて苦しい業者ばかりではありません。

新しい受注形態や、新たな荷主開拓の仕組みづくりによって、収益性も成長性も高まって、

上場を果たした運送屋さんがこの1~2年だけでも数社あります。

アマゾンをはじめとする通販業者が成長しているように見えますが、最終的に品物を届けることが

できるのは、ラストワンマイルといわれる「最後の配達パワー」を持っている業者だけです。

そう考えると、トラックを持ち、ドライバーを擁している運送屋さんは最強のプレーヤーと

いうこともできるのです。

つまり、すべてを所与として、動かせない条件として考えてしまい、その枠内だけで

もがいて苦しむのではなく、一度現在の仕事のやり方や荷主のことから離れて、まったく

新しい発想で考えてみることを強くお奨めします。

慣れないと1人ではなかなかできないかもしれませんが、同業者や昔の友人でもご家族でも

構いませんから、相手を見つけて議論していくと、霧が晴れてくることがあります。

最高の後継者対策は、経営者が毎日「面白おかしく」「充実感をもって」仕事をしている姿を

見せることです。