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スイスの高級時計メーカーに見るファミリービジネスの矜持

 

スイスの高級腕時計メーカーのプロモーション動画を何気なく見ていたら、何だかとんでもないことをナレーションがしゃべっているのです。

 

最初は、普通の広告だと思って、画像を単なるイメージとして、ぼーっと眺めていただけでした。

 

しかし、これはただ事ではないとびっくりして、もう一度再生して、今度はじっくりと聞き耳を立てました。

英語なので、精神を集中しないと聞き逃します。

 

再度聞いてみると、ますます凄いことを言ってるとわかりました。

時間のある方は、この拙文を読む前に、是非その動画をご覧いただければと思います。

 

スイスには高級時計メーカーといわれる会社がいくつもありますが、その中でもピラミッドの頂点に位置すると定評のあるパテック・フィリップ社が、2018年10月に公開した最新のプロモーション動画です。

(当ブログはアフィリエイト目的でも何でもなく、邪心も下心もないのですが、ファミリービジネスにご興味のある読者のご参考のために貼り付けます)

 

従来の高級腕時計メーカーの上得意の女性客といえば、いわゆる「良いお家の奥様」でした。

大くくりでいえば「セレブ」ということになるのですが、昔のセレブの女性というのは、今の言葉でいえば専業主婦です。

 

お仕事などは全部使用人にやらせて、ご自分は優雅に過ごすというのが通り相場でした。

 

ところが、いまは時代が変わりました。

セレブの女性と言えば、従来型の専業主婦の奥様や、未婚のお嬢様も依然として多く存在していると同時に、バリバリと働く女性も増えています。

 

昔は王侯貴族を中心に相手をしてきた高級時計メーカーも、そうした近年の「バリキャリ」を意識した商品開発をする時代となったのです。

 

事実、同社の社長はこのプロモーションについて、「従来は、男物の時計を一回り小さくして、周囲に宝石をあしらっていれば女性物として通用したが、これからはそれでは飽き足らないお客さんが増えてくるので、そこをターゲットにした」という趣旨の発言を別の動画で発表しています。

 

さて、リンクに貼った動画には、画面に日本語訳が表示されていますから、だいたいの内容はわかります。

 

しかし、同社のプレスリリースにナレーションの原文である英文がすべて掲載されています。

そこから、この動画の「ト書き」を引用させて頂くことにします。

(出所:Press Release, Patek Philippe, Geneva October 2018, The new Twenty~4 Automatic,  Strong and innovative: the advertising campaign) 

 

ADVERTISING CAMPAIGN FILM SCRIPT(商品名が入った1行のみ割愛)

 

As I live my life, I am increasingly conscious.

Surprised by my strength.

My determination.

By the power of my beliefs.

"I find reward in the honesty of my endeavors."

"Ambitious to experience the opportunities life offers to me."

"I feel fortunate, yet grateful."

"Proud of what I have achieved."

"And convinced there is much more I can do."

(1行 略)

Begin your own tradition.

 

なんという力強いメッセージなんでしょうか!!

いや~、びっくり仰天です。

 

同社の公式な日本語訳は、時計のイメージには適しているのでしょうけれど、ちょっとキレイ過ぎて、この詩の内蔵しているインパクトが伝わりにくいので、私が勝手な意訳をします。

 

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ここまで生きてきて、益々わかってきたことがある。

我ながら驚いた。

自分の力に

自分の決断力に

信念の強さに

努力は嘘をつかない。

人生が与えるチャンスを掴み獲ろうとした勇気に対する報酬だ。

幸運だったし感謝もしている。

しかし、これは誇るべき私の成果だ。

そして、もっともっと出来ると確信している。

自らの伝統を創始しよう。

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これをですね、歳の頃で30代半ば?と思しき美貌の女性が、ブツブツと呟いているのです。

 

仕事もバリバリ、妻として夫と腕も組み、母として娘の相手もする。

そういう、「すべておいて完璧な女」から発せられる自己の内面からの正直すぎる心情の吐露です。

 

映画やドラマや、はたまたコマーシャルフィルムの世界では、これと同様のシーンは数あまた制作されてきたでしょう。

 

しかし、ここまで強烈なメッセージを、そこまでの威圧感も嫌らしさもなく、却って淡々と発信しているということに、再度驚きます。

 

これまでは、商売上は男性向けが「中心」で、女性向けはどちらかといえば「従」でした。

これはどの高級時計メーカーでもほぼ同じ状況でしょう。

 

時代の変化を鋭敏に察知し、それだけではなく、明確な言辞として、「形」に表す。

具体的なモノとして具象化するだけでなく、その内包する時代性を過剰とも思える修辞によって敷衍する。

 

これこそが、業界を永年にわたってリードしているトップ企業ならではのアクションといえます。

そしてそれを主導したのが、一度も外部から資本も経営者も招いたことのない、一貫した家族経営で連綿と操業しているファミリービジネスの矜持だと思います。