Q6 事業譲渡を受けようと思いますが、対価が折り合いません。

売り手側から提出を受けたこれまでの決算書類をもとに、こちらで企業価値を算定したところ、先方の言っている金額と10倍近い乖離があります。よく聞いてみると、これから事業化していく計画の新規事業の収益分を見込んでいるということです。このようなことは あるのでしょうか?

 

A6 買い手と売り手の間で、言い値に差があることは通常よくあります。とくに、交渉の最初の段階で何倍も離れているということも、決して珍しいことではありません。

その乖離が誤解に基づくものであれば、それがどのような誤解なのかを突き詰めて、解決して歩み寄っていくという作業を行います。

何件もM&Aの交渉に携わっていますと、誤解が生じるポイントは、だいたい似通っていますから、解決の糸口をみつける道筋もほぼ決まっています。

今回のお話を伺うと、「将来の新規事業の収益を対価の対象とする」ということを売り手が主張していると解釈できます。

ここでいう「将来」がいつなのか?、また、そのための投資にかかるキャッシュアウトは完了しているのか、それともさらに資金流出が必要なのか?、など詰めるべきポイントはいくつもあります。

売り手側のほうで既に投資が完了していて、あとはその果実を収穫するばかりであるという時間的な先後関係と、その収穫できる果実の量と蓋然性について、査定が必要です。

売り手側は、とかく良い面ばかりを強調し、リスク面についての目配りが不足しがちですから、買い手側は当然その点を厳しく見る必要があります。

頂いた文面だけからは、本件の事情の正確なことをすべて理解できかねますが、「これから事業化していく計画」という部分が、ちょっとひっかかります。

「これから」「事業化していく」ということは、具体的な投資行為(キャッシュアウト)は、まだ開始されていない、もしくは、比率としてはごく少額の調査費程度しか支出していないように思えます。

つまり、本格的な投資行為は、本件M&Aの成立後に実施されることになるように読めます。

M&Aの効力が発効して以降は、当たり前ですが、その会社は買い手のものになりますから、その事業を実施するか否かは新しい株主・経営陣が決めることですし、何より重要なことはそのための資金は新たな株主の懐(法人名義を含めて)から出る訳です。

投資完了している事案の収益ということなら、その確率をどうみるかということで理解できますが、投資していない事業は、いくら具体化していても未来の夢物語の一種に過ぎませんから、その対価と言われても、投資支出していない売り手が要求できるのは、「アイデア料」程度のことにならざるを得ないでしょう。