プレゼンスライド作成の3つの流派を比較

 

プレゼンのスライドをどうやって作成したらよいか?という参考書はたくさん売られていますし、ネット上にはご指南してくれるサイトが山のようにあります。

 

しかし、どれも自分の考え方を述べるだけで、選択肢について言及しているところは少ないようです。

 

そこで、スライドの作成について、いくつかの流派を紹介して、比較検討したいと思います。

 

ここでは、スライドを作る心構えとか、全体構成とかは対象とはせず、もっぱら1枚のスライド画面をどのように構成するかという、構成要素の選択と配置(レイアウト)について考えます。

 

いま、多数派といえるのは、冒頭に掲出したようなスライドだと思います。

 

これは、経済産業省のホームページに掲載されているPDF資料から引用したものです。

(出所:経済産業省製造産業局素形材産業室、「素形材産業を含めた製造基盤技術を活かした「稼ぐ⼒」研究会」取りまとめ、平成29年3⽉、18ページ)

 

さまざまな情報を1枚に織り込んだ上で、全体の議論の流れと結論に至る論理構成のプロセスを踏まえ、一定の視座から透視を加えて、作者の意図する方向へと聴衆の思考を誘導するように作られています。

 

これは非常に優れた1枚だと思います。

 

世の中には、内容面でこれほど秀逸ではなくても、形式面ではこれと同様なスライドが毎日星の数ほども量産されています。

 

商業的なセールスプレゼンテーションなどにおいても、こうしたスライドが多数を占めています。

 

この形式の特徴は、とにかく1枚に盛り込む情報量が多いことです。

いろんな情報を入れ込んで、その相互関係などを矢印などのチャート図パーツを用いて、視覚的にも表現しようとしています。

 

その分だけ、どうしても字(フォント級数)が小さくなり、会場の大きさや投影画面の状況などにもよりますが、聴衆からは見づらいスライドになってしまいます。

 

字が小さく情報が多いメリットは、全部を紙に印刷して綴じれば、そのまま報告書になることです。

お役所の資料は、基本的に紙で訴え、紙で残す文化を反映して、紙ベースを「主」に考えられていて、報告会におけるスライド投影での見やすさは「従」の位置づけなのでしょう。

 

ところが、お役所ではない純粋な民間企業において、紙で残すよりも先に、まず顧客(潜在顧客を含む)に理解してもらう場であるプレゼン会場において、このような字が小さく見にくい、つまり理解しづらいプレゼンスライドが投影されているのは、残念なことです。

 

とりわけ、意思決定権をもっている層は、年齢的に視力が低下していることが多いので、小さい字で情報を凝縮したスライドは、一見して「ごちゃごちゃしている」というマイナスのイメージがつきやすいという大きなリスクがあります。

 

つぎに、比較的古いタイプのレイアウトを紹介します。

 

これは、私が30歳代のときに、起業して資金調達をするために作成した事業計画書からの引用です。

 

当時は、パワーポイントもあるにはあったのかもしれませんが、すべてのPCに標準装備というわけではなく、PCハード側のメモリも今に比べればはるかに小さかったので、画像を縦横無尽に使うには無理がありました。

 

そういうこともあって、私は投影用のプレゼンスラ

                          イドはエクセルで作っていました。

 

                          左の1枚目は、表紙に見えますが表紙ではありませ

                          ん。ストーリーの構成上、転換点に位置するスライ

                          ドであることを聴衆に印象づけるために、敢えて一

                          言だけで1枚を使っています。

 

次のスライドはこれです。

 

光と影がありますよ、という前のスライドを受けて、では、光ってなんでしょう? という中身になります。

 

特徴は、

① 必ず箇条書きにする

② 1枚のスライドに入れ込む行数は数行以内

  (できれば、5~6行に収める)

③ 箇条書きの1つ1つは、1行以内にまとめる

  

という感じです。

 

光のあとは、当然、影の中身ということになります。

 

このように、短いフレーズだけで構成し、テキパキと進行していくのが、私が外資系コンサルタントとして稼動していた1990年代のプレゼンスライドの特徴でした。

 

会社の研修で最初に叩き込まれたのが、

・1スライド、1メッセージ

という基本ルールでした。

 

1枚のスライドに色んなことを盛り込むな、言いた

                          いことは1つだけにしろ、ということをマネージャ

                          ーもパートナーも口を酸っぱくして言っていました.

 

なお、当時こうしたスライドばかりだったわけではなく、現代風の「情報てんこ盛り」型のスライドを好む先輩コンサルタントもいました。

 

ただし、それは会社の基本方針からは逸脱しているため、当時日本代表だった堀紘一さんなどは、小さい字でぎっしり詰まったスライドを見ると、「何だ、この下手なスライドは!」などと大声で怒っていましたが。

 

「数行型」のスライドの場合には、ポンポンとテンポよくプレゼンが進行するので、1枚にかける時間は1分以内になります。

30分のプレゼンで30枚というのが目安の枚数でした。

 

しかし、21世紀に入ると、外資系コンサル業界も急速に情報てんこ盛タイプのスライドが主流になりました。

 

いま、最新といえるのは、主として西欧系のイベントで主流になっている、「語り中心」のスタイルではないでしょうか?

 

左は、TEDの動画から拝借したものです。

プレゼンをする人の左後方のスクリーンに映っているのが、プレゼン用のスライドです。

 

文字はほとんど書かれていません。

                                                                                    あくまでも写真とか絵とか、グラフとか、そういう画像

                                                                                    だけで1枚1枚が構成されています。

 

このタイプのスライドが、前掲の2つのタイプと根本的に異なる点があります。

 

それは、プレゼンテーションにおいて「スライドは脇役である」ということです。

 

主役は、演者の「語り」です。

スライドは、あくまでも語りの途上で、ビジュアル的に補佐する必要がある場合に、聴衆の理解を向上させるために用いる、という位置づけです。

 

なので、スライドは「必要に応じて見てもらう」という地位に格下げになりました。

聴衆の目は、スライドではなく、演者に終始注がれているのが、前世紀型のプレゼンテーションと大きく異なるポイントです。

 

しかし、考えてみれば当り前のことです。

 

プレゼンテーションは何らかの主張を聴衆に向けて説得するために行なわれます。

つまり、その主張の中身もさることながら、話者の「人となり」そのものが聴衆にとって重要なのです。

 

どんな人間がどんな表情で語っているのかということも、信頼感を醸成する重要なピースであるはずです。

 

しかし、スライド中心のプレゼンにおいては、聴衆の目は終始スクリーンに釘付けになっていて、話者のほうへ視線が注がれる時間的比率は少ないのが現状ではないでしょうか。

 

人間は、スクリーンと、生身の人間と、どちらに「より一層」説得されやすいのか?という問題です。

 

だから、TEDだけなく、新製品の発表会などに登壇する西欧系著名経営者のプレゼンは、ほとんどがこの最新の形式をとっています。

 

故スティーブ・ジョブズなどが典型的でしたし、カルロス・ゴーンさんもソニーの平井さんも同様です。

 

日本の若手経営者で個人投資家(エンジェル)の千葉功太郎さんが進めているドローンについてのプロジェクトについて、彼のプレゼンを今月拝見する機会があったのですが、まさにこのタイプのスライドでした。

 

スクリーンに投影されるのは、写真や絵が基本であって、文字はほとんどありません。

プレゼンの中心は「千葉さんの言葉」なので、画面はあくまでも補助的にしか使いません。

 

(60分で使うスライドは十数枚だったのではないでしょうか)

(補助的ではありましたが、要所要所で聴衆の理解を増大させる効果的な画像が使われていました)

 

聞き終わった時に聴衆に感銘を与えるのは、スライドではなく話者なのだ、ということを再認識させてくれるプレゼンでした。

 

なお、このタイプは「語り」が中心なので、話者には「スライドを見ながら話す」というカンニングは許されません。

 

スライドと関係なく、論旨をわかりやすく展開する「筋書き」は、スライド使用時よりも何倍も綿密に構成し、練り上げなくてはなりません。

 

語り手には一層の鍛錬と、毎回の本番前の練習が課されることになります。

 

以上、「てんこ盛型」「箇条書き型」「補助画像型」の3つの流派を見ました。