話題のWeWorkで研究発表

時期はお盆の真っただ中、場所もギンザSIXの中にあるウィーワークと、気候から何から実にホットな環境で、これまた最新の研究成果に触れることができました。

 

ちょうどその日の日経朝刊で、米国ウィーワークのIPOが決まったと報道されていたのも、ホットに輪をかけていました。

 

話には聞いていたものの、実際に中に入ってみると予想以上の近未来感覚が充満していて、まあ一言でいえば別世界ということになります。

 

それは当然ですが、自分が紛れもなく旧世界の住人であることの証明であります。

 

旧世界の中心地ともいうべき銀座通りの喧騒から、なんともわかりにくい(余計な観光客が迷いこまないように、敢えてそうしているのでしょう)外部エントランスから、エレベータで高層階の中間レセプションで一度身分証明の提示が求められ、さらに乗り換えて目的のフロアにただどりつくというプロセスを踏みます。

 

広い共有スペースを抜けると、ガラスで中が丸見えになっている個室オフィスが立ち並んでいるエリアになります。

 

どんな人たちが、どんなことをやっているのかは、しげしげと観察すれば机上の書類も、ホワイトボードに書いた文字も、PCの画面も見えてしまう感じですが、無論そんな野暮な人はいません。

 

そういう近未来空間で、ファミリービジネス研究の世界的泰斗、Dr Sanjay Goel を迎えて研究セミナーがありました。

 

Dr Sanjay は現在ミネソタ州立大学で経営戦略と企業論の教鞭を執られ、日本にもたびたび来日して研究成果の発表や指導をされている大変精力的な先生です。

 

とくに最近では、ファミリービジネスにおけるグループ経営や起業家の輩出などをテーマにした、世界的にもユニークかつ主導的な研究成果を多く発表されています。

 

このセミナーでは、フィンランドのファミリービジネスで、広範な多角化を行うだけでなく、それを極めてシステマティックに管理している事例について詳細な発表がありました。

 

創業家が何世代にもわたって事業経営をしていると、良い面も良くない面もいろいろと出てくるのが常であって、これは洋の東西を問いません。

 

そこで最近の日本では、事業継承の専門家などは「なるべく株式は分散させずに、1つの家に集中させたほうがよい」という指導をしているケースが多くみられます。

 

それ自体は現実的なことで、私も首肯する部分が多かったのが正直なところでした。

 

ところが、Dr Sanjay の研究では、まったく新しい合理的な発想により、同じ血統から分岐して人数が増大した創業家に各種の事業を営ませながら、ファミリー事業の「成長・拡大」と「管理・統制」を同時に達成しているという、極めて斬新な仕組みが明らかになりました。

 

これは日本のファミリービジネス研究の世界にはまだ紹介されていない最新の研究成果であり、大きな感銘を受けました。

 

それを受けて、今度は私が The 9th : An Entrepreneur in An Old Business Family と題して、日本の伝統的な産業分野に属する歴史の長いファミリービジネスファミリーにおいて、起業家精神に富んだ「中興の祖」が出現した具体的事例について英語で報告しました。

 

そこでは、その事例が1人の中興の祖であっただけでなく、現代日本の流通業における最近の経営システムの原理の先駆的な実践がなされていたことを明らかにしました。

 

最後に、ファミリービジネスの本質として、世界のファミリービジネス研究において最新の成果の1つと言われる「スチュワードシップ理論」の萌芽が、アメリカ大統領リンカーンによって1863年になされた「ゲティスバーグ演説」において既に見て取れるという問題提起を行いました。

 

当日は、経営学、社会学、事業継承、M&Aなど学際的な研究者や実務専門家が集い、公用語に指定された英語にて内容の濃いディスカッションが行われました。

 

主催された秋澤光先生(ファミリービジネス学会会長)をはじめ、貴重な報告をされたサンジェイ先生、お盆の中ご参集のうえ聞いて頂いた諸先生方に厚く御礼申し上げます。