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株主総会出席レポート(その2)

6月25日(金曜日)午前10時から三菱商事の定時株主総会に出席して参りました。

場所は、プリンス・パークタワー東京です。古い方にわかりやすくいえば、東京プリンスホテルの新館タワー棟です。

 

ここは、芝ゴルフ場のあった場所です。芝ゴルフは打ちっ放し練習場ですが、大昔、まだ小学校に上がる前に父親に連れられて、よく練習をみていました。

 

その頃にはゴルフにまったく興味はありませんでしたので、親のスイングを間近で長時間見ていても、上手いとか下手とかさえ、思うことはありませんでした。

その一方で、ボールが山盛りになった籠が、すぐにいくらでも追加が頼めることに感心していたのは覚えています。

 

随分と気前がいいところなんだなーと思っていたのですが、その分チャージされることがわかるようになったのは、もう少し後からでした。

 

それと、当時街の店では1本30円くらいだったコカ・コーラの瓶の自動販売機があって(缶になる前の時代です)、1本100円と表示されているのを見て、あまりの高さにびっくりしたことは思い出しました。

 

その芝ゴルフ場も、それ以前にあった広大な公園緑地を潰して開場した経緯があるのですが、そこに触れだすと長くなるので、今日は立ち寄らないことにします。

 

さて株主総会ですが、開会していきなり、議長が「地震がきたら決議事項を先にやりますが、よろしいでしょうか」と会場に同意を求めてきたのは、面白い進行でした。

 

出席株主数と議決権数などの報告は、普通は議長選任のセレモニーの直後になされることが一般的ですが、三菱商事では議長が報告事項の話を始めて、暫く話し込んでから、ここで集計ができたので報告しますと、途中で話を挟む形でやっていました。

 

これは非常に参考になります。

 

第1に、冒頭で報告するには、受付係が大急ぎで集計しなければなりません。

株主の中には、平気で遅刻してくる人も少数ではなく、かなりの人数が開会後にもパラパラとやって来るので、そういう人をカウントするかしないかなどを含め、短時間でいろいろなことをテキパキと、かつ遺漏も誤謬もなく進めるのは結構ピリピリ来ます。

 

その点、先に議事を進行しておいてもらって、ゆっくりと時間をかけて集計して、間違いのない数字を報告に上げる流れにすれば、余裕が持てます。

 

第2に、出席株主に対して、過度な形式主義ではなく、ナチュラルな印象を与える点で、企業へのシンパシーを向上させる効果があると感じました。

 

三菱商事の株主総会に出席するのは今回が初めてなので、これがこの会社のやり方なのか、それとも社長の垣内さんの方針なのかはわかりませんが、日本を代表する超大企業の定時総会でありながら、なんとなく肩の力が(良い意味で)抜けている進行スタイルでした。

 

(会場の受付周辺や会場内の交通整理などの係員の方々には、張り詰めた緊張感がほとばしっていたのは当然ですが)

 

株主からの質問は、事前に株主に対して質問内容を会社宛に送らせておいて、当日は「事前にお寄せいただいておりますご質問にご回答申し上げたのち、会場にお越しの株主様のご質問をお伺いします」(大意)という仕切になっていました。

 

これは前回のソニーでも採用されていた議事進行方式で、コロナ禍では主流になっているようですが、会社側に大きなメリットのあるやり方といえます。

 

個人株主の質問は、よく考えられた良い質問もある反面、独りよがりで重箱の隅をつつくような、筋のよろしくない質問も高い確率で発せられます。

 

リアルの会場では、議長が指名する前にその株主からどんな質問が飛び出すか知る方法がないので、最初の質問から紛糾したり徒労感が出たり(特に聴衆側にです)するリスクをコントロールできます。

 

しかも、「そんな質問が本当にあったのか?」は出席株主にはわからないために、会社側がもっともアピールしたい内容を、あたかも株主から質問があったから返答するという体裁をとって説明することも可能になります。

 

実際に、今回の総会では、「事前質問への回答」ということで、最初に「当社とNTTとの提携の意義」について回答がありました。

「回答」という用語を用いていましたが、実際には会社の言いたいことの一方的なアピールでした。しかも、延々と時間をつかって長口舌していました。

 

内容も、いまバズワードになっているDXを引き合いに出して、子会社のローソンをめぐるSCMなどに効果があるとか言っていました。

ただ、SCMの専門企業を西暦2000年に創業し経営していた身から言わせて頂きますと、「これによってこんなことができますよ」と明るい未来、バラ色の期待成果として語られていることが、私が20年以上前に事業計画書に盛り込んでいたことと何ら進歩がありませんでした。

 

というより、三菱商事の子会社である三菱食品の前身企業の1社だった菱食が、さらにそれ以前の1990年代に実際に実施していたことと大差ありませんでした。

 

確かに当時の菱食は先進的でしたが、当時はまだインターネットが商用で実用化されていない時代でした。

 

四半世紀も経って、DXだのAIだのビッグデータなどという概念や用語でお化粧は新し目になったかもしれませんが、中身はまったく変わっていないところに、日本を代表する大企業2社の「提携」なるものの空虚さ、アリバイ作り目的という実態が見え隠れして、痛々しい気持ちになってしまいました。

 

で、実はこの日の総会でもっとも感心したのは、取締役・監査役選任のための候補者リストです。

 

こちらに、当日の資料を回収されてしまう前に撮影した写真を出しておきます。

 

さきほどの株主出席票の裏面が、議案に対する賛否の投票用紙になっています。

 

このように、すべての候補者に対して、選任に「賛成」「反対」「棄権」が選べるようになっています。

 

1人1人個別に意思表示することができるというのは、株主総会の議事運営の世界では画期的なことです。

 

首から懸けるクリアフォルダーに、ちゃんとした立派なシャープペンが装填されていて、それでマークシートを塗りつぶすようになっています。

 

とかく企業は、法令等で義務づけられたことは渋々実行するのですが、それ以上のことで自社もしくは自社経営陣が不利または気の進まない事項については、法令で義務化されていないことを金科玉条として、平気で放置する傾向があります。

 

いろんな会社の株主総会に出席してきた経験からしても、役員選任議案に対しては、「この人は賛成するが、この人はちょっと頂けない」ということが往々にして発生します。

 

しかし、全候補者の選任が一括して1本の議案として上程されているので、通常は個別の候補者ごとに株主の意思表示は果たせません。

 

この三菱商事の場合にも、議案は全候補者一括でしたし、議場での議事もその通りだったのですが、出席票の裏面においては、個別候補者に対する賛否を堂々と表明するようになっています。

 

ほかの上場企業でも、法令等の規定に安住するのではなく、このような進歩的な一歩を踏み出す勇気を期待したいものです。

 

さて、事前質問への長々とした返答が済んだところで、当日出席株主からの質問を受けるところまで来ました、

 

最初の質問が、まさに想定外でした。

「ロッテがIPOするので、購入して経営してはどうか」

 

これまで特段の関係のなかった会社に対して、株式公開を契機に経営権を取得する考えはないか?という質問です。

 

これは普通の思考回路では、思いもよらない質問です。

おそらく、想定問答集にもなかった内容ではないでしょうか。

 

私も経営者在任中には、株主総会の議長を務めるに備えて、信託銀行さんの専門部署の専門家の方々にご指導をいただき、電話帳のような想定問答を用意したり、予行演習をしたりして入念に準備した経験があります。

 

予行演習の時には、信託銀行の専門家が株主役になってくれるのですが、事前の打ち合わせには全然なかった突拍子もない、想定外の質問を敢えて繰り出してくれたりします。

 

それでも、まさか業務上のつながりのないロッテの株式公開で経営権を取得しないか、というのは非常に荒唐無稽な質問といえます。

 

それでも議長の垣内さんは、「率直に言って考えていませんが、その時々で妥当な判断をしたい」と何事もなかったように返答していました。

担当役員に振るまでもないので、この質問はそれで終わりました。

 

2番目は「ペルーの鉱山は儲かるのか? ケジャベコ銅山は?」というマニアックな質問でした。

 

これは言ってみれば想定内だったのでしょう、自分の言葉で回答の範囲を広げながら滔々と返答したあと、担当役員を指名して詳細に答えさせていました。

 

ここで、大変びっくりする事態が発生しました。

2~300人は来場していたと思われる出席株主から、質問を求める挙手がパラパラと3~4名ほどしか挙がらなかったのです。

 

出席株主総数が10名程度の中小銘柄ならいざ知らず、戦前からの伝統ある大企業の定時株主総会では思いもよらない光景でした。

 

議長が思い余って、「ご質問はいかがでしょうか?」などと促すほどでした。

これも大企業の議長としては、非常に珍しい発言でした。

 

それで出た質問が、「社長として今期もっとも心配しているのは、どんなことですか」というものでした。

 

答は、「もう6年目なので、事業のほうはだいたい大丈夫だと思いますが、社長と役員の後継者にいい者をどうやって指名するかですね」というものでした。

随分とさばけた返答だったと思います。

 

最後はそちらの女性いかがでしょうかということで、指名された株主は人事制度について質問しました。

 

これには総論で議長が返答したあと、「担当常務のXX君からお答えします」と議長に指名された人事担当常務が演壇に立ちました。

 

総会の場において、常務のことを「XX君」という呼称で呼ぶというのは、如何なものかという議論はあるでしょう。

社内での日頃の癖がつい出てしまったのでしょうか。

 

個人株主には誤解している人が多いのですが、株主は社外の者ではなくて会社のオーナーです。

れっきとした当事者なのですから、新聞記者やアナリストが用いるような「御社」という他人行儀は理屈に合わないわけです。

 

それなのに、質問の際に議長に向かって「御社は・・・」という言い方をする人が頻出します。

(今回の総会では1人くらいしかいなかったのは上出来でしたけれど。)

 

なので、本来的な視点で株主総会は内輪の関係者の集まりだから、日頃から常務を君付けしている社長が、なにも急に「さん」付けに改める必要はないという考えもあるでしょう。

 

まあ、それ自体はどっちであってもさして面白くも何ともないことですが、興味深かったのは、指名されて登場した常務がお爺さんに見えたことです。

 

社長に「XX君」と呼ばれて登場した人のほうが、社長よりも随分と老けて見えました。

社長が歳上とは限らないので、別に驚くことでもないことではあります。

 

ためしに手許の役員候補の経歴書をみると、社長のほうが年齢で3歳、入社年次でも3年上となっています。

 

このように外見の老生度が逆転する現象は、フィンランド症候群と呼ばれている症例の1つらしいです。

 

フィンランドの研究者が、企業勤務者の最終役職別に平均寿命の統計を取ったところ、社長になった人と一生平社員だった人が最も長命で、へたに中間管理職になった人の寿命が短かったというものです。

 

古今東西、宮仕えには何かと心労が多く、権勢を振るうトップのように脂ぎるような暇もないという実情が、株主総会で再確認できたというお話しでした。