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株主総会出席レポート(その3)

さいごは、大日本印刷です。

会場は、市ヶ谷の台地上にある本社の「多目的ホール」でした。

 

例によって、会場周辺警備、順路案内、受付まわりなどは、ものものしい雰囲気が充満していましたけれど、会場それ自体は広くはなく、「ホール」という名称から想像するような、大袈裟なものではありません。

 

舞台もないし、固定椅子もなくて、天井も低い、ごく普通の大きめの会議室です。

 

開始5分前に到着したのですが、ご覧のとおり30番台でした。小ぶりの会場にさらにパラパラと分散して設置されたパイプ椅子に、たかだか40人くらいの株主が着席していました。

 

ソニーや三菱商事との最大の違いは、株主席の最前列だけテーブルが設置された座席になっていたことです。

 

それ以外にはパラパラと設置してある座席が、その最前列だけ隣席との間隔を詰めてあり、背広姿の若めの男性が多数、ギューギューに陣取っていました。

 

通称社員株主と呼ばれる人たちですかねー?

(もしそうだとしたら)有休を取らされた上に、業務命令的に早朝からお勤めですか。ご苦労様です。

 

まだそんなことやってる会社があったのかーと、レトロ感に感慨深いものがこみ上げて参ります。

 

しかも、そこだけ机(プロレスで持ち上げて相手の頭上からバカーンとぶつける折り畳み式のあれです)を並べたり、若い男子を隙間なく整列させたりって、見るからに防波堤というか防護壁です。

 

そんなに荒れるんですか、この会社の総会って・・・と思ってしまいます。

そんな準備をしないほうが今風だし、かえって問題ありそうですって、自ら吐露しちゃってる逆効果しかないのですけど。

 

やらせているほうが、心配なんでしょうね。

なにせ昭和一桁生まれ、88歳の現役会長ですから、昭和から平成初期まで吹き荒れていた総会屋さんたちの幻影が、いまだに脳裏をかすめてるんでしょうかね。

 

質疑は低調でした。

ソニーのようなファン層もいないし、2人の株主がパラパラと挙手しただけです。

 

質問に対して、議長は担当役員を指名するだけです。

指名された担当役員は、あらかじめ用意された想定問答から、短い該当箇所を棒読みして終わりです。

 

答弁の最後には必ず、「以上、ご回答申し上げました」と付言するのがお約束です。

本番前の予行演習で、信託銀行の専門家から必ず指導されるポイントです。

 

総会屋もしくはそれに準ずる敵性株主に対して、必要最低限の事項だけを事務的に返答し、余計な言質は決して与えないことが強調されます。

 

誰がそのような「敵性株主」に該当するかは完全にはわからないため、すべての株主に対して毅然たる態度で接する、というのが昭和~平成初期の株主総会のデフォルトでした。

 

さて、挙手した2人の株主との質疑応答は、あっという間に終わりました。

このままでは、質疑応答の時間が終了してしまいます。

 

挙手すればかならず指名される状況が思いがけず到来しました。

では、折角ですので。。。

 

「同規模同業種で比較すると、ファミリー経営のほうが、サラリーマン経営者の企業よりも業績が良い、企業価値が高いという統計的な研究もあるようです。日韓だけがファミリー性を否定したがるようですが、世界的にはファミリー経営は悪いことでも隠すことでもありません。トヨタやスズキなどをみても、創業家の持ち分が僅かでも、創業家の経営者が尊敬されています。当社も会長・社長が創業家の流れを汲むファミリー企業であることを堂々と表明したほうが、企業価値がより高まり、株主の利益に資するのではありませんか?」

 

これまで、この会社は長らく「北島家の同族支配をやめろ」「いつまで居座るのか」「子供に社長を継がせるとは怪しからん」という批判に晒されてきた歴史があります。

 

なので、そういった意見を論駁する答弁の用意には万全を期していたと思います。

しかし、今回出たのは、正反対の指摘でした。

 

「同族経営に誇りを持て」「それが株主価値の向上につながる」などと、株主総会で株主から言われるとは思ってもみなかったようです。

 

その証拠に、用意したペーパーに該当する項目はなかったようで、従前の答弁のように紙を読むことはありませんでした。

 

内容も、管掌分野のない経営トップマターであり、担当役員に振ろうにも振り先がありませんでした。

 

仕方なく、議長である社長が答弁しました。

(本当は「仕方なく」ではなくて、ソニーや三菱商事のように「喜んで」でなくては困るのですが)

 

「私は企業価値の向上に向けて長年にわたり取り組んで参りました。今度とも先頭に立って、第三の創業に取り組んで参ります。以上、ご回答いたしました。」

 

内容は紋切り型ですが、事前の準備がなかったようで、殆どしどろもどろになっていました。

 

業績も株価も好調なので、ファミリー経営であることに自信をもって取り組んだほうが、へんな糊塗や言い訳をするよりも生産的です。

 

なによりも、「ありのまま」を大切にする経営者のナチュラルが姿勢が、従業員を含む各種ステークホルダーの理解と共感を高めるのにな~

 

・・・などと思いつつ、驟雨しょぼつく市ヶ谷台を後にしました。