事業の品格

 

                              

 私は、江戸時代から続く酒屋の長男に生れました。将来どうせ酒屋をやるなら、それまでは全く別の世界を見てやろうと考え、大学卒業後10年間は、財閥系の会社で日本的マネジメントを体感し、次いで海外留学後にアングロサクソン系のコンサルタント会社で、西洋人の思考回路を経験致しました。

 どちらも期間は長くはありませんでしたが、体力的にも精神的にも極限に近い状態で体に叩き込まれました。組織原理と保身のせめぎ合いの現場からは、日本サラリーマン社会のメンタリティーを学びました。他方、西洋人とその影響下にある日本人の一部が数字と論理で武装するのは、相手を逃げ場なく論破するときにアドレナリンが出るからだということも思い知りました。

 

 こうした経験を経て酒屋の経営をしているうちに、やはり人生は勤め人として他人のために使うのではなく、自分と代々の暖簾、それに自社の従業員のためにエネルギーを使っている時が精神的に最も充実していることがわかりました。そして、古い産業であっても経済合理性を元に革新を起すことは可能だと悟りました。それは、何でも潰す構造改革ではなく、コツコツと地味な事業を永らく営んできた普通の商売人が、「それでよかったんだ」と思えるような、昔日の自信とプライドを取り戻すことです。

 

 若い人が拝金ベンチャーを起業するのではなく、商家や町工場の子息が再び親の事業を継承したいと思えるような行動モデルを提示できればと考えております。この国の産業隆盛を支えて来られた先輩諸賢が兼ね備えておられる矜持と品格を、この国の若い世代の事業家に唱導して参りたいと思っております。